ITILはIT運用をITサービスとしてとらえ、その運営方法やノウハウを提供しているものです。ある会社では、ITILのサービスデスクにならいプロセスの状況をひと目で把握して、情報を共有し、プロセスの統制と改善を図り、その後、システム全体を見渡してプロセスごとに進捗状況を確認する方法を取り入れ、高品質で効率的なシステム運用プロセスを実現しました。一方でITILのインシデント管理を取り入れたある会社では、障害情報や変更情報を一元化して共有し、ナレッジ(知識)を底上げする方法を推奨するITILに習いインシデント管理システムを作り上げましたが、ソフトが搭載する検索機能が不十分、登録するデータの作りこみも甘かったため、必要な情報が見つからないため使われない、使われないので情報も登録されないといった悪循環に陥ったという失敗談もあります。
システム運用にITILを導入する際の注意点
ITIL導入には、多大なる費用と労力、時間が必要です。ITIL導入に当たっては、「3つのP」と言われるproccess、peaple、productsのバランスが大事だといわれ、プロセスだけが充実しても、担当者のスキルだけあっても、どんなに高価なツールを使用しても、それぞれのバランスが崩れると効果は得られません。ITILを方法だと考えて、特定の管理プロセスだけに力を入れると、効果が出せないということにもなりかねません。ITILは対象範囲が広く、先行企業でもその一部しか取り入れられていません。ITILを部分的に取り入れる場合には、目的を明確にし、経営者とシステム運用担当者で目的を共有しあう必要があります。目的を現場レベルで考えることも必要です。また、部分最適にならぬよう、ITILの全体像を把握しておく必要があります。
ITIL導入におけるシステム運用部門の心理性
ITIL導入によって、致命的な障害がほぼ0になると、システム運用に携わる人たちは、緊急事態が減ることでITサービスのユーザーからの苦情や問い合わせ件数が大幅に減り、ユーザー対応から解放されます。そこから、自分に何が期待されているかが明確になり、目指すべき方向性が見えてきます。意思が統一され、現場の士気が向上し、自分に期待されていることが見えてきます。そして自ら教育や訓練を受けることで仕事の生産性が高まり、システム運用に携わる人たちの仕事への満足度が高まるのです。言い換えればITILは、システム運用部門の意識改革が最大のポイントでもあります。そのためには、経営者はシステム運用担当者への品質改善に対する強い意志の表明や勉強会の開催、メンバーを参加させて行う改善プロジェクト体制の構築などをすることで、経営者と情報システム部門の歩み寄りが重要となってくるのです。